司法研修所のテキストとして用いられる新たな研究書で示された、面会交流や連れ去り別居に対する裁判所の積極的な指針とその影響について、以下に説明する。
これまで日本の裁判所は、面会交流を推奨する姿勢を見せつつも、誰が子どもを育てるかを決める「監護者指定」の実際の場面においては、面会交流に対する姿勢の重要度を低く扱ってきた。裁判所が「監護の継続性(現在の生活環境を維持すること)」を過度に重視した結果、面会交流をさせるつもりが全くない親であっても監護者として指定されることが多発していた。これにより、「連れ去り別居」から「監護者指定の獲得」、そして「面会拒否」へと繋がる悪質なコンボが横行し、深刻な親子断絶を引き起こす原因となっていた。
この問題に対し、法曹会から『子の引渡しを求める紛争の審理及び判断に関する研究』という新たな本が発表された。この本は有力な裁判官らによって執筆されており、実際の裁判の判断基準として参照されるほか、裁判官の研修機関である「司法研修所」のテキストとしても用いられる非常に影響力の大きいものである。この本の中では、監護者を指定する際の4つの重要な考慮要素のうちの1つとして、「非監護親(別居親)との関係に対する姿勢の評価」、すなわち面会交流にどう対応するかが明確に挙げられており、それが極めて重要な要素であると示されている。
さらに特筆すべきは、「連れ去り別居」に対する評価が厳格化されたことである。将来の面会についてしっかりと話し合いや説明をした親と、何の協議もせずに突然子どもを連れ去った親とでは評価が全く異なり、後者のような無断の連れ去り行為は「否定的に評価する」と明確に記載された。これまでは、事前の話し合いの有無や連れ去り行為自体がマイナスに考慮されなかったため、連れ去り別居がやりたい放題に横行していたが、裁判所の指針にこのマイナス評価が明言された意義は非常に大きい。
ただし、この本が出たからといって、明日からすぐに面会がスムーズに行えるようになるとは限らない。本の中での連れ去りに対する否定的な評価も、あくまで「4つの考慮要素のうちの一部」の比重にとどまっており、「連れ去り別居をした親は絶対に監護者になれない」とまで断言されているわけではないからである。しかしながら、裁判官が学ぶ公的なテキストに「連れ去り別居や面会拒否を否定的に考える」と明記されたこと自体が大きな前進であり、共同親権の導入を前に、実務が適正化していくための確かな希望の光となっている。
片山ひでのり法律事務所
弁護士 片山栄範
静岡県弁護士会所属
登録番号 40459
〒422-8034
静岡市駿河区高松3227